白昼夢20080507
誰かが車を買った。白い少し古いセダンだった。中古車らしかった。
その白い車の名前はヌルにしよう。ヌルっぽかったし。
ヌルの弱いヘッドライトを頼りに山の砂利道を走った。
灰色のジャンパーを着ていて、濃霧が絶えない3月だった。
免許は持っていなかったし、クラッチを踏むタイミングが最悪。
だけど車を走らせた。たぶん、死体を埋めに行くんだ。
蝶々とか蛾とか羽虫がフロントガラスにこびりついてる。
目的地はなかった(という設定に途中で変わった)から、気がついたときには実家の団地に戻る道を走っていた。ハンドルを切りながら、別に疲れてもいないし何も考えていない。
団地内には大きな道路があって、そこはむかし公園だった。ちかくの岡の上にも公園があってそれを上の公園って呼んでたから、下の公園って呼んでた。
下の公園を進む途中でデニム生地のハーフパンツと黄色いシャツを着た男の子がこっちを向いて佇んでいた。真夜中なのに! 気味悪いと思いながら男の子の横を通過したとき、ガラス越しに何か言われた。
「その車、僕んちのだよ」
みたいなことを。僕はやっぱり気味悪いと思いながら実家の駐車場に車を止めた。
家に帰って顔を洗っていると、玄関のチャイムが鳴った。
どこかの「おとうさん」という感じの男が訪ねてきていて、うちの両親に怪訝そうな表情をちらつかせながら何か話し始めた。
これこれこういう経緯で白いセダンを盗まれたんだが、その車(ヌルのことだ)がお宅の駐車場にある、云々。
話している途中でさっきの男の子が「おとうさん」の後ろについてきた。「おとうさん」は後日またここに来るという旨を宣告して帰っていった。
白いセダンを返せという一言を直接言われなかった。それが気持ち悪い。
盗難車が中古車屋にならんでいたなんて!
両親はおろおろしていた。とくに父は絶望の一歩手前な表情を隠している表情で、さっさと返して穏便にすませようとしていた。
うちの両親は宗教上の理由から常に利他的で自己犠牲をこよなく愛し神を恐れる傾向にあるのだった。複雑な気持ちがした。書くの面倒。
でも買った時点では僕らにとってそれは盗難車ではなかったんですよねそれならその店に連絡してすいませんどうなってんるんですかあなたは大馬鹿者ですか! って怒鳴ってやれば問題は丸投げしてしまえるんじゃないですか、と言ってみた。
だけど父親は相変わらず困った表情に染まっていた。
ちょっと乱暴に言い過ぎたのが悪かったのかと思った。
めんどくさいめんどくさいなぁと思っていたら僕は東京にいた。
目が覚めた。プロレタリア?